「医師と哲学者」より

 大谷氏は中田氏といろいろな事を話し終わったあと京都にある哲学の研究室へ行くことになった。大谷氏の恩師がつかっていた研究室であったが、現在は展示室となっていた。恩師もまた大谷氏と同じように博学な人物でクラシック・バレエ体操競技の教育学的な研究を行っていた。
 大谷氏は展示室に入って行って係の人に頼んでヘーゲルの『精神の現象学』を持ち出し可能にするようにたのんだ。
 下宿にもどった大谷氏は『精神の現象学』をぱらぱらとめくってみた。大谷氏はヘーゲル哲学の研究をしていたこともあったので読み方については熟知していた。すると一枚の手紙がぽろりと落ちた。そこには「くろまく」からの手紙が書かれていた。
『大谷氏へ
 中田氏は現在私のところにいる。医学研究所の原子炉にくくりつけてあるのだ。かえしてほしければ姿をみせることだ』
 大谷氏は驚いた。そういえば中田氏と別れたあと、携帯電話に何の連絡もなかった。大谷氏は黄緑色のリック・サックのなかに44マグナム銃をいれて京都にある医学研究所へ行くことにした。
 医学研究所には新薬を開発するための量子テレポーテーションシステムが大きなるつぼのなかにおさめられていた。