教育哲学ショートショート 「踊るカエサル」

 彼女はバレエ講師をやっていた。先祖をたどっていくとカエサルにいきつくらしい。レッスンがはじまると引き締まった身体をあらわにする。腰回りの筋肉が発達していることは数々の舞台という「場所」で「舞っていた」ことの「証し」なのだろう。顔は童顔で瞳はおどろくほど澄み切っている。
「さーはじめます。バーにつかまってワン・ツー・スリー・フォー交互に足踏みをして、6番のポジションでそのままゆっくりと床を推すように、そして腰が床に対して垂直になるようにゆっくりと腰をおろして行ってください。OK。首のストレッチ、右回り、左回り、ゆっくりと息をはきながら、手をついて右回り、カンブレ、右回り、左回り。OK」(音楽を変える)

 その後センターレッスンに入ると仲間たちは「場所」めぐってふらふらする。熟練者たちはどんどんと鏡の前に出る。この鏡の前に一番に出た人たちはまず、プロにかぎりなく近いレヴェルといっても過言ではない。センターレッスンは初心者にとっては「苦」を感じる。音楽が流れ、それに合わせて踊るカエサルの振り付けを模倣しなくてはならない。
 
 まず、3人が前にでてピルエットやアッサンブレ・スーブルソーをやったり、その場でできる「動きかた」を師の「動きかた」から見取り、瞬時に音楽が流れた時に「とぎれることなく」踊らなくてはならない。

 踊るカエサルは戦略やゲーム理論を練ることが好きで、「くるみ割り人形」を何度か踊った経験があった。伝説によると踊るカエサルはおこさまと暮らしているらしい。また、ゲーム理論発達心理学に応用する研究で学会にいくこともしばしばだ。

 踊るカエサルは親友のアリストテレスがいた。アリストテレスは職人気質なバレエダンサーでユーモラスな教授法でおこさまから慕われていた。座っているときは存在するのか存在しないのかふたしかな雰囲気を漂わせているのだが、レッスンの板間に足を踏み込むと人格が豹変する。アリストテレスの教育は肌理こまかく、厳密なものである。しかし、アリストテレスの字は汚い。

 アリストテレスはいつも首にバンダナをかけてレッスンに臨む。多くの舞台の匂いを吸ってきたバンダナなのであろう。アリストテレスは「くるみ割り人形」においてロゼッテル・マイヤーを踊ることになった。おっさんの役であるがその重要性は金平糖のクララよりもはるかに大きい。アリストテレスの卓越した身体能力に裏づけられた演技力で観客はロゼッテルマイヤーをおっさんとはだれもおもわなかった。アリストテレスの演技は新聞で高い評価をうけた。

†誤植です。一番ポジションは股関節を180°にひろげて踵をつけた状態のことで6番ポジションはきおつけをしたじょうたいで足をまっすぐにして踵をつけた状態のことをいいます。