『まわる神話構想ノート』より

 「病気」を見つめる医学ではなく、「人間」を見つめる医学を考察するためにはファンタジー的な考慮がなければならない。人間の魂にかかわる部分はマークシートにあらわれることはない。それは、生まれてきた環境や出会ってきた物語に影響される。深層心理の考察には神話や童話の解釈をないがしろにすることができない。例えば、ギリシア神話旧約聖書新約聖書の物語であったり、ロシアのトルストイドストエフスキーの宗教的な霊感をもち、人生を深く洞察し倫理的なお伽噺をつむいできた小説家の作品を読者が人生においてどのように受け止めるかによるとおもわれる。

 ユングは聖書やギリシア神話の解釈によって人間の霊魂を見つめながら、精神医学や発達心理学にその智慧を昇華した人物であり、『心理学と宗教』や『アイオーン』などの著作によってその考察がいかんなく表現されている。ここであつかわれている魂の考察は聖書やギリシア神話を源泉としているため、きわめてアリストテレスの霊魂の考察に近いように思われる。