『明暗』と聖書

 私は『明暗』を読んでいるときに京都風にアレンジして書きなおしてみたいと感じた。津田の<生きざま>や<生々しい>病院や人物の描写は聖書における人物の描写に限りなく近いとおもったのである。人間のいやらしい部分ときれいな部分が漱石によって未完の大作としてかきあげられていた。
 
 聖書は旧約聖書新約聖書からなり新約聖書の<ものがたり>は旧約聖書を前提として書かれている。そのために新約聖書を読むときには同時に旧約聖書をよむつもりでよまなければならないというややこしい側面をもっているが、単独の<ものがたり>としてもとらえることもできる。
 
 <ものがたり>と言う視点に立脚したとき、両者は同じジャンルにくみすることができると私は感じている。夏目漱石の女性性と男性性が『明暗』のなかにおいて色濃く浮き彫りにされている。