『エクリ』ジャック・ラカンからみる無意識の演技論

 ジャック・ラカンフロイトの文献を丁寧にひもときフランスの世界に導入した立役者であり精神分析家である。ラカンの著作である『エクリ』には演技にかんする興味深い記述がみられる。筆者はハイデガーの『有と時』と比較しながら演技の在り方を模索していきたい。

 主体はただひとりの俳優としてこれらの心像のドラマを演じるために心像と同一化するのである。この喜劇は笑いと涙の徴候のもとに一種の天分によって位置をあたえられるものであるが、それぞれ個人が即興的にこれを演じるという点において、またたしかに才能によってではあるが、同時にあらゆる生命の不完全さからくる心理的豊穣を表しているかにみえるという点においてちょうど即興喜劇(コメディア・アルテ)のようなものである
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 その場の雰囲気をつかんで瞬時にアドリブで演技をすることは至難の業である。もしくは相手の心情を悟って演技を演技でかえすことは並大抵のことではない。卓越した身体能力のその場の機知がもとめられる。即興演劇については実体験として何度もかんげきしたことがある。この考察はハイデガーの『有と時』と『現象学的研究の入門』をひもとくことによって深化していきたい。