「医師と哲学者」

大谷氏は「くろまく」の元へと行き、中田氏をかえしてほしいとたのんだ。しかし「くろまく」は
「だめだ。おまえは『カラマーゾフの兄弟』を読んで人間の魂についての論文を書いて持ってくるのだ。神の存在を私は問いたいのだ」
 大谷氏は自宅にもどって『アンナ・カレーニナ』と『カラマーゾフの兄弟』をよみはじめた。人物関係がややこしいので途中、音読しながら読むことになった。
 そして急いで論文を書いていった。中田氏とは竹馬の友である。死なせるわけにはいかないのだ。そしてようやく論文を書きあげることができた。
 『カラマーゾフの兄弟』は異端審問官の部分を中心にプラトンの作品と対比させながら書いていった。加賀乙彦氏の『宣告』という作品を大谷氏は読んでいたのでその経験が役にたった。
 それにたいして、『アンナ・カレーニナ』はラブ・ストーリーなのでアリストテレスの『ニコマコス倫理学』の友愛の部分を書きあげて『アンナ・カレーニナ』の評論のようなかたちをとった。
 パソコンで打ち込みが終わると大谷氏はいそいで中田氏の元へいった。しかし、医学研究所はもぬけのからだったのでおどろいてしまった。
≪いったいどこへ消えたんだ≫